詐欺を詐欺と認識するということ
じつは、これが意外と難しかったりします。
基本的に、詐欺師や悪徳業者は人を騙すプロです。だからこそ彼らは、できるだけ長いあいだ自分の嘘が相手にバレないよう、ありとあらゆる手段、方法を用いてきます。すぐにバレるような嘘をつくことはないし、嘘と見抜かれないための下準備も周到に行なっていることもあります。
小道具にも気を遣います。いつでも連絡が取れるようにと、名刺を渡したり、自身の携帯電話の番号を教えたり、あるいはそれらしい服装をしていたり、バッチや、ネームホルダーに入れた証明書といったもの装備して、相手を信用させようとします。
私が被害に遭った、弁護士を騙った詐欺事件の場合、彼らは私が以前、高額な羽毛布団を買わされてしまったことを知っていました。こうした「自分しか知らないはずの情報を知っている」というのは、詐欺を行なう側にとって大きな武器となります。
携帯電話も名刺も、じつはいくらでも偽造可能です。弁護士を装った詐欺事件のグループは、ひとりで何台もの携帯電話を使い分けていたそうです。少し冷静になって考えればすぐにわかることのはずなのですが、上に書いた「自分しか知らないはずの情報を知っている」といった要素などで、一度その嘘を信じ込んでしまうと、そうした細かい疑惑が綺麗さっぱり消失してしまいます。
詐欺を詐欺と認識するのは、自分ひとりの視点だけではけっこう難しいものです。
たとえば、体に良いと言われる高額の水を日常的に買い、飲用している人がいるとします。その人は、その水が「体に良いもの」という認識をもち、それを信じているからこそ水を買い続けているのですが、たとえ、その水がただの水道水であったとしても、体に良いと信じているかぎり、その人にとってそれは「体に良いもの」でありつづけます。
第三者がその水の成分を分析し、ただの水道水とまったく同じであるという科学的根拠を示すことで、はじめてその人は「騙された」と認識するにいたります。
私の場合、けっきょく警察から直接電話連絡が来るまで、自分が詐欺の被害者であると認識することができませんでした。
詐欺の被害は、時間が経過すればするほど被害の額も大きくなるのが普通です。そして、一度その詐欺の手口に乗ってしまうと、自力ではなかなか認識を改めることができなくなるのです。