お金を騙し取られない、たったひとつの心構え

「ノット・ファースト・コミットメント」を徹底して詐欺・悪徳商法被害ゼロを目指す

詐欺だとわかってもお金を振り込んでしまう心理

前回のエントリーでは、「劇場型」と呼ばれる振り込め詐欺の典型的な手口である「三役系」のシナリオを紹介しました。そしてそこで、この手の詐欺行為の本質が、ターゲットに対する「脅迫行為」に該当するものであることも書きました。

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言ってしまえば、この詐欺によってターゲットに突きつけられるのは、「お金を払う」か「家族の社会的信用を失墜させるか」の二者択一になる、ということです。このある意味で究極の選択は、詐欺グループの演技にすっかり騙されてしまっているターゲットにとって、冷静な判断力を奪うものであることは、言うまでもありません。

もちろんそれらのシナリオは、何から何まで詐欺グループによる綿密で巧妙な嘘なわけで、そのことに気づいてしまえば騙されることもない、と普通なら思ってしまいますが、詐欺の現場に精通した詐欺グループは、私たちよりもはるか先までターゲットの心理状況を把握しており、自分たちが仕掛ける詐欺行為が、相手にどれほどの影響力を及ぼすものなのかもすっかり掴んでしまっています。

そしてその心理が、たとえ相手に詐欺だとバレていたとしても、なお金を取ることができるという確信へと変わりつつあります。その鍵のひとつは、「騙り調査」などで強化された、ターゲットに関する個人情報です。

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詐欺のために利用される、情報強化された名簿は、詐欺トークのリアリティを増すために使われます。同じ「オレオレ詐欺」でも、息子や娘の名前を知っているかどうか、彼らがどこの会社で働いており、現在どのような役職に就いているかといった情報があるのとないのとでは、当然のことながらトークのリアリティが違ってきます。

ですが、じつはこの「情報強化された名簿」は、それ以上の脅迫のタネとして、ターゲットに迫ってくるものがあります。そしてそれは、この電話が詐欺ではないかと疑いをもったとしても、いやむしろ、詐欺だと確信するがゆえに強くなってくるものなのです。

では、情報強化された名簿を用いて、「劇場型」の詐欺を仕掛けたとき、ターゲットがどんな心理になるのかを考えてみましょう。

相手はこちらに電話をかけてきた時点で、自分の息子や娘の名前を名乗っています。またそれだけでなく、彼らがどんな職業に就いているかといった情報すら把握しており、それを巧みにトークに組み込んできます。ここでターゲットは、会話の端々から大切な家族の情報がすっかり相手に掴まれていることを知ることになります。

ターゲットが「劇場型」詐欺の内容を信じてしまった場合はもちろん、「もし万が一詐欺ではなかったら」という心理が働きます。電話を切って警察に連絡して、もし詐欺でなかった場合、息子や娘の立場はさらに悪いものになってしまう……。被害者はこうした葛藤に屈して、お金を払ってしまうことになります。

もし、ターゲットが「これは怪しい、詐欺かもしれない」と思った場合はどうでしょう。

もちろん、その時点で電話を切られることもありますが、ある種の気の弱いターゲットの場合、容易に電話を切れない状況に追い込まれています。何しろ相手は、自分の家族の個人情報を詳細に掴んでいるとわかっています。もしここで電話を切ってしまったら、自分だけでなく子どもや孫にまで犯罪者の報復の手が及ぶかもしれない、という不安が頭をよぎるからです。

そして、そんな相手の心理を増長させるのが、じつは「キレ役」の怒鳴り声です。「キレ役」とは、「三役系」のなかでは「ターゲットの家族から被害を受けた当事者」という役割を演じますが、大抵は終始激昂して大声を上げており、きわめて暴力的で威圧的な雰囲気を相手に与える役目も担っています。

この「キレ役」のキレっぷりが、ターゲットの頭に「報復も辞さない犯罪者集団」という印象を、相乗的に高めてしまっているのです。

詳細な個人情報を握っているという圧力と、「キレ役」の暴力的な印象――このふたつによって、たとえ詐欺だとわかっていても、とにかくこの手の輩とは一刻も早く縁を切りたいという心理をターゲットに起こさせ、ついお金を支払わせることになるのです。

詐欺の手口として、ここまで相手の心理を把握したうえで行なわれているという事実には、じつに戦慄するしかありません。私が「劇場型」詐欺について、脅迫という要素を用いたのも、こうした現状があるからです。

ですが、この手のやり方は、それこそ強面の押し売りが各家庭を回っていた時代から行なわれつづけ、詐欺集団にしてみれば散々知り尽くされたものです。そして彼らがもっとも恐れていることが、警察に目をつけられることであるのも同じです。

前回のエントリーでも書いたことですが、まずは主導権を自分側に引き寄せるため、一度電話を切ることからはじめましょう。この手の詐欺は、電話を続けることそのものが相手に「コミットメント」を与えることになります。もちろん、即座に電話がかかってきても、けっして出てはいけません。そして一度冷静になったうえで、自分の知る方法で家族と連絡をとり、状況をあらためて確認するという能動的手段に出るようにしてください。