お金を騙し取られない、たったひとつの心構え

「ノット・ファースト・コミットメント」を徹底して詐欺・悪徳商法被害ゼロを目指す

「劇場型」詐欺シナリオの定番

振り込め詐欺について調べていると、よく「劇場型」という言葉と出くわします。

これは、複数の詐欺師がそれぞれ役割を演じることで、より臨場感を出すような詐欺の手口のひとつで、ターゲットの心理をかく乱し、より効果的に追い詰めることを目的としています。

警視庁のホームページでは、こうした「劇場型」によるオレオレ詐欺が最近の傾向だと書かれていますが、詐欺グループのなかでは、もはや古典的と言えるものになっています。

劇場型詐欺は、詐欺師がまるで劇団員であるかのごとく、それぞれの役割を演じ切るところからつけられた名称ですが、そこにはターゲットを心理的に追い込むための「シナリオ」も、あらかじめ用意されています。

劇場型詐欺のシナリオの基本となっているのは、「三役系」と呼ばれるものです。これ文字どおり、三人一組となって行なわれる詐欺の方法で、「ターゲットの家族が、誰かにとりかえしのつかない損害を与えた」というシナリオのもと、それぞれが「ターゲットの家族」、「その家族から被害を受けた当事者」、「非当事者の第三者」という役割が与えられて進行していきます。

シナリオそのものには、非常に多くのパターンがあります。たとえば、「電車で痴漢行為をはたらいた息子」と「その被害を受けた女性の父親」、そして「鉄道警察官」という役割であれば、激高した「女性の父親」を「鉄道警察官」がなんとかなだめつつ、示談金による手打ちに持ち込もうとしている、というシナリオとなります。

これが「同僚の奥さんと不倫をして妊娠させた息子」と「当事者の同僚」、「仲裁役の弁護士」になることもあれば、「会社の金を株で使い込んだ息子」と「その息子のせいで不渡りを出しそうな経営者」、「家族から一時的に金を借りて不渡りだけは避けようと提案する専務」といった配役になることもありますが、上述した基本的なシナリオは同一のものです。

まず、「ターゲットの家族」役は、ターゲットに電話をかけるだけで、あまり話をしません。自分の犯したことに対する責任を痛感し、あるいはこれからどうしたらいいのか見当もつかず、すっかり意気消沈している様子を言葉少なげに演じることが目的です。

「その家族から被害を受けた当事者」は「キレ役」とも呼ばれる役を演じます。これは、とにかく受けた被害に激怒しており、私的制裁も辞さないという恫喝の声をあげて、その怒りを表現することがおもな目的です。示談金などで決着をつけてたまるものか、という迫力がターゲットに伝われば、それだけ相手を心理的に追い詰めることになります。

そして「非当事者の第三者」は、三役のなかでもっとも冷静を保ち、ターゲットに示談金で穏便にことを済ませるか、あるいは裁判、逮捕といった流れとなって社会的信用を失墜するか、という二択を選ばせる役割を担います。

もちろん、目的は相手からお金を騙し取ることである以上、相手に「示談金」を選ばせるしかないような「シナリオ」があらかじめ汲まれているわけですが、その流れを保管するのがこの三人の演技であり、だからこその「劇場型」です。そのために「非当事者の第三者」はひたらす激高し、「非当事者の第三者」は親切な提案を装いながらも、もし「示談金」を断ったさいの、「ターゲットの家族」が辿ることになる暗澹たる未来を示唆することを忘れません。

さらに詐欺グループたちは、事態がより切迫していることを強調します。「一刻も早くお金を用意しないと大変なことになる」「今ならまだ間に合う」という体で、時間を区切ってATMに急がせたり、指定の場所までお金を直接持ってくるように指示したりすることが大半です。そしてこれは、ただでさえ混乱している相手から、さらに冷静な判断力を奪うことにつながります。

以前のエントリーで「オレオレ詐欺」を取り上げたとき、「ノット・ファースト・コミットメント」という詐欺対策にはうってつけの詐欺だと書きました。

sagi-zero.hatenablog.com

しかしながら、この「劇場型」詐欺のシナリオを詳しく調べてみればみるほど、これはある種の「脅迫行為」につながっていることがわかってきました。ターゲットの家族を人質に、お金を要求する脅迫行為――そのシナリオは、相手の心理を知り尽くしたうえで組まれたものであり、たとえそれが架空のものであったとしても、なかなか冷静になるのが難しいものがあります。

ですが、ひとつだけ忘れてならないのは、この手の詐欺が、あくまで「電話」という間接的な手段で行なわれるという点です。

「ノット・ファースト・コミットメント」という詐欺対策は、とにかく相手に「コミットメント」を不用意に与えないことで、詐欺や悪徳商法を防ぐものです。そして、こうした劇場型詐欺の場合、「電話を続ける」ことそのものが、相手に対する「コミットメント」を与え続けることにつながります。

であれば、まずは主導権をいったんチャラにするため、とにかく勇気を持って「電話を切る」という行為が必要です。そうすることで、詐欺グループが生み出した「仮想劇場」から、いったん抜け出すことができるはずです。そしてそのことで、冷静さを取り戻すことができれば、たとえば自分のほうから家族の携帯電話に連絡を取る、といった能動的行為へと移ることも可能になります。

くり返しますが、この手の詐欺は電話という間接的アプローチがほとんどです。そしてそれゆえに、そのアプローチを断ち切ることもけっして難しくはありません。受話器を置く、それだけでいいのです。即座に電話がかかってくることも考えられますが、それは絶対に避けなければなりません。