お金を騙し取られない、たったひとつの心構え

「ノット・ファースト・コミットメント」を徹底して詐欺・悪徳商法被害ゼロを目指す

「確証バイアス」という落とし穴

「確証バイアス」とは、何かを証明するさいに、好意的な情報や意見ばかりを収集し、反証となる情報や証拠を無視する傾向にあるという人間心理のことです。

簡単に言えば、「自分の都合の良いものにしか目が行かなくなる」、ということです。私がこの言葉を知ったのは、詐欺や悪徳商法のことをネットで調べるようになってからのことですが、詐欺事件に巻き込まれていた当時の私は、まさにこの「確証バイアス」に陥っていた状態でした。

弁護士を騙った詐欺師は、布団業者を訴えると称して何度かまとまったお金を要求し、当時の私は言われるままにお金を何度も手渡していたのですが、さすがに時間が経過するにしたがって、何かが変だという気持ちが募るようにはなっていました。

ですが、その否定的な気持ちは、けっきょく警察からの連絡が来るまでは、はっきりしたものとして意識されることはなかったと思います。自分が詐欺の被害者になったという、外からの事実を突きつけられることで、不意に認識するに到った心理です。

詐欺師に騙されているときの私は、たとえ相手の態度に不審を感じていたとしても、それを「詐欺に遭っている」というふうには思いません。それは「確証バイアス」によって打ち消されてしまうのです。代わりに私が勝手に思っていたのは、「訴えられている業者がいろいろ手を尽くして、裁判を遅らせているのだろう」という想像でした。それは当時の私にとって、じつに都合の良い、納得のできる考え方でした。

今にして思うと、なぜそんなふうに考えてしまうのか不思議で仕方がなかったのですが、この「確証バイアス」という心理学の用語を知ることで納得がいきました。そして同時に、恐ろしいものだとも思いました。なぜならそれは、人間心理を示す一状態であり、およそ人間であるかぎり、誰もがそうした心理状態に陥ってしまう可能性がある、ということでもあるからです。

人は往々にして、自分にとって不快なもの、嫌なものには目を背け、見ないようにする傾向があります。当時の私にとって、自分が詐欺に遭っているという事実は、どうあっても認めたくない事実でした。そうした心理も「確証バイアス」に陥りやすい要素となっていたと思われます。

プロの詐欺師にとって、この「確証バイアス」はじつに都合の良いものでしょう。こちらが意識して騙そうとしなくても、相手の方が勝手に自分自身を騙すような考えを抱いてくれるのですから。逆に言えば、いったんこの「確証バイアス」に陥ってしまうと、自分ひとりの力でそこから抜け出すのは困難です。