お金を騙し取られない、たったひとつの心構え

「ノット・ファースト・コミットメント」を徹底して詐欺・悪徳商法被害ゼロを目指す

一貫性を保ちたいという心理

人は一度決めたことに対して、その状態を維持するような行動を取ろうとします。これを心理学の用語で「一貫性原理」と呼びます。

たとえば、ある人が勤めている会社を辞めると決意し、退職願を出すなどの具体的な行動をとったとします。もし、その人が優秀な社員であれば、会社側はその人に対して残ってくれるよう説得することでしょう。

もしかしたら、今よりも良い雇用条件を提示して引き止めることも、あるかもしれません。

はたして、説得はうまくいくでしょうか。経験のある方ならわかると思いますが、一度や二度の説得で、相手の決意を変えることは非常に困難なものです。

このとき、その人のなかでは大抵、次のような心理がはたらいています。一度「辞める」と自分で決めたことを、そうそう簡単に翻すわけにはいかない、と。

この「自分で決めた」という要素は、本人が思っている以上に大きな圧力となって、その人の考えや行動を左右します。

日常生活において、首尾一貫していることは好ましい性格だとみなされます。言うこととやっていることが一致していなかったり、一度口に出したことをすぐに取り消したりする人を見て、誠実さや安心感をいだく人は、まずいません。

人は自分にも相手にも、一貫した言動を望み、ときにはそれを強要したりするのです。もちろん、人によって程度の差はあるでしょうが、これは人間であれば多かれ少なかれ誰もがもっている性質です。

先程の退職の例を挙げるなら、退職するという話が会社内に広まるにつれて、その人はますますその意思を翻すことが困難になります。退職することを知った人が増えれば増えるほど、一貫性を求める圧力は大きくなり、退職するという行為を実行することを望むからです。

この「一貫性原理」、基本的には好ましいものとして歓迎されるべきものなのですが、ときにこの心理が、詐欺の被害をより深刻なものにしてしまうことがあります。

私の詐欺被害の実体験に照らし合わせるなら、それはしばしば「逃避の手段」として用いられていたところがあります。

私は一度、羽毛布団販売業者を訴えるという嘘の申し出に了承し、そのためのけっして少なくない額のお金も支払っていました。事はすでに決定され、事態はもう動いてしまっている。金も払ってしまっている。いまさら止めるなんてことはできないし、こうなったら行くとこまでいくしかない……。

もしかしたら騙されているのかも、という疑いがあったとしても、それ以上に一貫性を保たなくては、という心理に逃げ込めば、そうした悪い考えに思い悩むことからひとまずは解放されます。そしてそうすることで、ますます状況は悪くなるにもかかわらず、そこから離れることができなくなってしまうのです。