お金を騙し取られない、たったひとつの心構え

「ノット・ファースト・コミットメント」を徹底して詐欺・悪徳商法被害ゼロを目指す

点検商法

私は弁護士を装った賠償金詐欺で大金を失い、最後には刑事事件の被害者として扱われた経験をもっていますが、そうした詐欺のそもそもの発端は、布団のクリーニングを装って相手の家を訪問し、高額の布団を買わせるという悪徳商法にひっかかったことでした。この手の悪徳商法を「点検商法」と呼びます。

布団の例でいえば、最初はクリーニングやダニ・カビの点検と称して自宅に上がりこみ、使っていた布団を「調査のため」と外に持ち出しておいて、「クリーニングではどうにもならないほど汚れている」などと偽り、その代わりに新しい羽毛布団を高額で買わせてしまうという手口です。「元の布団を返してくれ」と言われても、なんだかんだと理由をつけて返そうとせず、布団の購入を強引に勧めてきます。

他にも、自宅のシロアリ駆除や水まわりの点検を無料で行なうと称する手口もあります。一度自宅にあげてしまえば、あの手この手で相手の不安を煽り、異様に高い工事代金の契約を迫ってくることは、布団のときと同様です。

また、消防署や水道局員など、いかにも公的機関の立場の人間であるかのように装って、本来は不必要な防犯グッズや消化器、空気清浄機などの商品を高額で購入させようとする手口もあります。これも点検商法の一種で、とくに「かたり商法」と呼ばれることもあります。

点検商法の最初のアプローチは、訪問販売という形をとることがほとんどです。もっとも、最初から販売目的だと明かせば、まず相手にされないことは向こうも心得ているため、「定期点検に来ました」とか「法改正の報告に来ました」とかいう文句をよく使うようになっています。またそのさい、会社名を名乗らない場合もよくあります。

対人関係が主となる悪徳商法の場合、キャッチセールスと同様に、相手からの小さな「コミットメント」をいかに多く引き出すかが勝負の分かれ目となります。それゆえに、悪徳業者はなんとかして相手からの「ファースト・コミットメント」、つまり点検商法では、「相手が玄関のドアをあける」という行為をさせようとするのです。

そもそも、訪問相手が本当の公的機関の職員である場合、何かの商品やサービスの販売を行なうことはありません。定期点検であれば、定期点検だけのために訪問してきます。対応のさいには、まずドアチェーンなどをかけたまま応対し、名刺や社員証の提示を求め、さらには公的機関への確認を入れるくらいの用心さが必要です。

そのことで相手に悪い印象を与えるのでは、という気遣いは、このさい無視してください。相手にしても、もし本物であれば、他にも回らなければならない地区を抱えているはずであり、できれば一回の訪問ですべてを終わらせたいと考えているのが普通です。

また、夜の訪問の場合は、「すでに就業時間をすぎているので」などと言い訳する場合もありますが、もし本物の職員であれば、そもそも夜に訪問してくるほうがどうかしています。その場合は、営業時間内に出直せと言えば済む話です。

点検商法は対人でのやりとりとなるため、相手の語りのうまさ、巧みさについつい話を長引かせてしまいがちになりますが、それ自体が少しずつ「コミットメント」を無意識に与え続けることにつながります。少しでも怪しいと思ったら、即座に対話を打ち切って追い返すようにしてください。

また、一度自宅に上げてしまってから、販売行為をはじめてしまった場合は、断固として「ノット・ファースト・コミットメント」を貫く必要があります。もちろん、相手は帰ろうとしないので、必要であれば110番通報をしてでも追い返しましょう。

じっさい、私はこの手の悪徳業者を追い返す最終手段として、「110番通報」を数度使ったことがあります。そのことで警察と話をしたこともあるのですが、詐欺や悪徳商法まがいの対応としての「110番通報」は、むしろそうしてくれて構わない、というお言葉をいただいてもいます。

自分だけの力ではどうにもならないような場合には、どんどん警察を利用するようにしてください。たとえ、そのことで事情聴取などの面倒くさい事態になったとしても、それでも大金を騙し取られるよりはマシなはずです。