お金を騙し取られない、たったひとつの心構え

「ノット・ファースト・コミットメント」を徹底して詐欺・悪徳商法被害ゼロを目指す

キャッチセールス

私が大学進学で上京してきて以来、このキャッチセールスには何度も巻き込まれそうになりました。後に説明する「アポイントメントセールス」もそうですが、この手の悪徳商法は比較的若い人をターゲットにすることが多いので、まだ世間の荒波に揉まれていない若者たちに、とくに注意してほしいタイプの手口です。

「セールス」と称してはいますが、最初のアプローチから何かを売るようなそぶりはまず見せません。大きな駅の出入り口付近、あるいは繁華街の路上において、たとえばアンケートの募集やチラシの配布などを装って通行人を呼び止めると、言葉巧みに喫茶店や営業所に連れて行って相手を囲い込んだうえで、商品やサービスを執拗にセールスし、購入させようとする、というのがキャッチセールスの典型的な手口です。

街頭でキャッチセールスを行なうセールスマンの特徴として挙げられるのは、とにかく一度引き留めた相手とのトークを長引かせ、「会話」を執拗に成立させようとしてくることです。

たとえばアンケート調査を装うような場合であれば、書き込みを終えたあとに「無料だから」「お試し期間中なので」等の甘い言葉をかけ、相手とのトークをことさら続けようとします。相手の容貌や性格などをしきりに誉めたり、疑問形の呼びかけをして返事を要求するような態度をとったりすることもよくあります。

もちろん、それが彼らの手口だから、というのもあるのですが、セールスマンたちにとっては、道行く相手からいかに広義の「ファースト・コミットメント」を引き出させるかが勝負の分かれ目であることを、何よりも心得ているのです。

つまり、セールスマンからの呼びかけという「最初の一手」に対して、こちらが振り向くことや、足を止めることといった動作のひとつひとつが、非常に小さな、しかし確実な相手への「コミットメント」として成立させてしまっているのです。そして、こうした無自覚な「コミットメント」の積み重ねによって、セールスマンの次の目的である「相手を別の場所に連れて行く」ことへの「コミットメント」をも引き出させやすくするのです。

無数の小さな「コミットメント」を積み重ねて、後に大きな「コミットメント」、金銭絡みの「コミットメント」へとつなげていくという手口は、詐欺師や悪徳業者たちがよく用いる王道パターンです。そして、だからこそ私たちは、彼らに対してどんなささいな事柄に対しても、「コミットメント」を与えるべきではないのです。

ですから、キャッチセールスに対しては、広義の「ファースト・コミットメント」の段階から、徹底して与えないように心掛けなければいけません。とにかく、街頭で見知らぬ人から声をかけられても、けっして振り返ったり、返事をしたりしてはいけません。アンケートに答えるといった行為も禁止です。アンケート用紙の下に契約書が仕込まれているといった、悪質なパターンもあるからです。仮に引き止められてしまっても、相手がしきりに会話を長引かせようとする場合は、毅然とした態度でその場を立ち去るべきです。

もっともキャッチセールスの場合、ファースト・コンタクトがいきなり相手との対面です。そしてこの「いきなり対面」というパターンは、電話や郵便、電子メールといったアプローチとは異なり、「無視する」という選択をとるのが難しいものです。なぜなら私たちだって、なにはともあれ直接出会った相手に対して、とりあえず嫌われるような態度は取りたくないと思うものだからです。ですがことキャッチセールスに関しては、そうしたある種の「見栄」があなたを窮地に陥らせることになりかねません。

というのも、一度相手に言われるまま喫茶店や営業所などの建物に入ってしまうと、狭義の「ノット・ファースト・コミットメント」を貫こうとしても、非常に厳しくなるからです。セールスマンからすれば、「興味があるから来たんでしょ?」と、相手からの「コミットメント」をもらったものと見なしています。もちろん、そこを突かれることで、相手が拒否しにくくなるという心理も織り込んでのことです。

私も昔、「絵画の展示会をやっているから見に来ないか」といったキャッチセールスに引っかかり、展示場という名の営業所に連れ込まれ、高額の絵画を買わされかけた経験がありますが、閉鎖空間であるがゆえに、逃げ出すこともままならない状況にいつのまにか追い込まれ、執拗で強引なセールスにさらされてしまうというのは、前もって心構えをしていないと大きなストレスとなり、正常な判断ができなくなってしまうものです。

もし仮に、そうした状況に追い込まれてしまったら、とにかくそこから脱出することを考えましょう。幸い、今の時代は携帯電話などの機器が普及しています。場合によっては110番通報をするなり、防犯ブザーを鳴らすなりしてでも、逃げの一手を打つ覚悟をしてください。