お金を騙し取られない、たったひとつの心構え

「ノット・ファースト・コミットメント」を徹底して詐欺・悪徳商法被害ゼロを目指す

固定的動作パターンに頼りがちな現代社会

動物の世界では、自分の縄張りに侵入してくる動物に対して、警告の鳴き声をあげたり、威嚇行為、さらには実際に攻撃を加えるといった行動が見られます。これは、自分の縄張りを守るという本能的な行為ですが、こうした行動を取らせる要因となっているのは、侵入者が自分と同種の動物かどうかとかいった見た目ではなく、それらがもつたったひとつの要素でしかない、ということが、動物行動学の分野ではわかっています。

これは、ロバート・B・チャルディーニ氏の『影響力の武器』という本で紹介されていたことですが、たとえば、七面鳥の母鳥がヒナ鳥を守る行動をとるのは、ヒナ鳥の姿を認識しているわけではなく、じつはヒナ鳥の鳴き声がスイッチになっているそうです。実験のなかで、ヒナ鳥の鳴き声を録音したイタチの剥製を母鳥に近づけると、その母鳥は天敵であるはずのイタチをまったく警戒しないどころか、それを守ろうとさえするのです。

動物のこうした反射的行動を、「固定的動作パターン」と呼びます。

この「固定的動作パターン」を逆手に取り、他種の鳥の巣に自分の卵を産み、その鳥に自分のヒナを育ててもらうカッコウのような鳥もいるくらいです。こうした行為を「托卵」と言いますが、言葉くらいは聞いたことがあるのではないでしょうか。

私たちはたしかに想像し、ものを考える人間なのですが、それ以前に動物である、と考えたほうが、むしろ人間の複雑で不可解な言動を説明しやすいことがあります。上に挙げた「固定的動作パターン」は、私たちのなかにも脈々と息づいています。そしてそれは、しばしば「思考をショートカットする」という形で現われてきます。

たとえば、テレビなどでよく何かの分野の教授や専門家と呼ばれる方々が登場し、ある現象を説明するシーンがありますが、私たちはそうした「肩書き」というものによって、その人の話すことを全面的に信じてしまう傾向にあります。

これは、権威に従うことが基本的に正しいと身に染みついているからに他ならないのですが、私たちの日常生活の大半は、こうした「固定的動作パターン」によって、なかば自動的な選択がなされ、行動をうながされています。というよりも、そうした反射行為に頼らなければ、私たちは常にありとあらゆることを熟考し、判断を迫られることになります。それではまともな日常生活を営むことができなくなります。

「思考をショートカットする」という反射行為は、私たちが複雑で常に変化し続ける人間社会を生きるための道具として必要だからこそ、身についたものです。そして詐欺や悪徳商法の被害に遭う人たちは、この反射行為を逆手に取られただけなのです。だからこそ、詐欺に騙される方が悪い、という意見に、私は真っ向から異を唱えますし、詐欺や悪徳商法の被害に遭うのはけっして他人事ではない、と何度でも訴えるのです。