お金を騙し取られない、たったひとつの心構え

「ノット・ファースト・コミットメント」を徹底して詐欺・悪徳商法被害ゼロを目指す

送り付け商法

購入した覚えのない商品を一方的に相手に送り付け、勝手に売買契約が成立したと思い込ませて代金を請求する――私がこの「送り付け商法」という手口をはじめて知ったとき、「そんなやり方があったのか」と、その逆転の発想に舌を巻いたものです。

別名「ネガティブ・オプション」とも呼ばれるこの悪徳商法もまた、ただ単に商品を送り付けるだけではなく、それに伴ってさまざまな手口、手法を重ね合わせてきます。たとえば、葬儀の日を狙って小包などを郵送し、あたかも故人が生前に注文したかのように装う、商品を送ったあとに脅迫まがいの電話を入れたり、執拗な請求を繰り返したりする、アンケート文書のなかに「商品購入」のチェックを紛れ込ませる、無料の商品だと思い込ませるようなトークを仕掛けるなどです。

また、郵便などの代金引換制度、いわゆる「代引き」を悪用し、荷物の送付と代金の回収をいっぺんにやってしまうという手口もあり、とくに注意が必要です。

私はこの手の悪徳商法を「逆転の発想」と書きましたが、それは今までの悪徳商法が、とにかくターゲットから金銭を確実に受け取ることを先行させようとするのに対し、この送り付け商法は、まず商品を送り付けてしまってから、強引に代金請求をするというやり口だからです。

これは、送り付けるターゲットが、売買契約にかんする法的知識をしっかりと把握していないことを見込んだうえの悪徳商法ですが、逆を言えば、そうした知識を把握している人に送ってしまった場合、送った商品をみすみすタダでプレゼントするに等しいことになってしまいます。

ということで、売買契約とはどういうものなのかをこれから説明しますが、まず業者が勝手に商品を送り付け、それを受け取ったとして、それがはたして「売買契約」成立となるのかと言えば、答えはもちろん「NO」です。

このあたり約束事は、一般消費者を保護するための法律である「特定商取引法」にきちんと定められているもので、業者が商品を送り付ける行為は、正確には「申込み」にあたるのですが、この行為に対して消費者側が商品購入の「承諾」、つまり「コミットメント」をしないかぎりは、契約は成立しないとみなされます。

つまり「売買契約」とは、業者と消費者双方の合意が必要であることを、まずは覚えておけばいいでしょう。

あとは、送られた荷物はどうすればいいのか、という問題ですが、じつは荷物の所有権は、売買契約が成立していないので、まだ業者側にある状態です。なので、受け取った側には荷物を保管する義務が生じます。先ほどの「特定商取引法」によれば、商品を受け取った日から14日間が経過した場合、業者は相手に対して商品返還の請求をすることができないと定めています。

つまり、ちょっと面倒くさいのですが、14日間は荷物をどこかに保管しておいて、それ以降であれば処分するなり消費するなり好きなようにしてかまわない、ということになります。

また、この14日間という期間を短縮したい場合は、業者に商品引取りの申し出をすることで、7日間にすることもできます。ただし、相手が悪徳業者の場合、そうした連絡を入れること自体に危険がともなうため(もちろん、それが「コミットメント」を与える行為になるからです)、トラブル回避のためにも内容証明郵便などの書面で通知することを勧めます。

ちなみに、個人宛ではなく会社宛に荷物を送りつけられた場合は、この「14日間ルール」は適用されないので注意が必要です。もちろん、「売買契約」が成立していないことに変わりはありませんので、とるべき対応は「着払いで送り返す」の一択となります。

むしろ、代引きを悪用した送り付け商法のほうにこそ警戒すべきかもしれません。「代引き」とは、配達業者に代金を渡し、その代金と引き換えに荷物を受け取るという制度のことですが、ここで代金を渡してしまうと、その後で騙されたと気づいても、代金を取り戻すことがかなり難しくなるからです。

何はともあれ、身に覚えのない荷物が送られてきた場合についても、「ノット・ファースト・コミットメント」を貫くことです。つまり、通常の荷物にしろ、代引きの荷物にしろ、いったんは受け取りを拒否することです。そして、家族がいればその旨を連絡し、もし誰かが注文したものであるならば、あらためて配送手続きをしてもらうようにしましょう。